いよいよ吾散るべきときがまさにきぬ。
心謹み恥じぬ日頃を昭和二十年二月中支にて遺書を認めたるの日。
降伏乃日
昭和二十年八月十四日睡れぬ夜半乃一時
中國乃古き詩に『國敗れて山河あり・・・・』
あてもなく水に浮べし朧月に
祖国乃母兄(姉妹)乃影を映して
我が身をぱ常にあるとは思わねど
残れるつとめ尚もあるらん
帰郷途上
昭和二十一年三月二十五日、博多上陸復員式終了後
五歳ぶり打ち見る山河変わらなねど
移りし人乃心ぞ淋し(車中にて)
焼け跡
昭和二十一年三月二十九日
東京都渋谷区景丘町三十五番地
我が家戦災跡にて
焼け跡に 冷たく濡れて咲く花乃
誰をも恨まぬ心ぞ床し